画廊の推す作家 平澤 重信
平澤の作品は、どこか物憂げで詩的な気分に包まれている。
それでいて強力な磁石に吸い寄せられていく砂鉄のように、
自然のままに放置しておけば、全て彼の
掌中に納まってしまう様なある不思議な魅惑がある。
彼の作品の持つユーモアのセンスと、交錯する自由奔放な筆さばきは、
アカデミズムに裏打ちされた堅牢なフォルム、合理的な色彩などで武装された
誹のうちどころ無い名品の持つ、あの優秀性とはまた別個で、
常に座右においておきたいと思わせるいとおしさに満ち溢れている。
卓越した感性は、ともすれば俗人の中にあって周囲のものに異端児扱いを
受けることもあるが、私は彼のアトリエを訪れる度に、この作家は本当に
生来の天衣無縫の画家なのだと感心して、いつの日か素顔の平澤が
知られることになるであろうと、
その制作途中の作品と作家の顔に思わず見とれることがよくある。
平澤 重信は、ここ数年それは作家の好む色相ということもあろうが、
カドミウムグリーンを用いて描いている。作家に内在し浮んでは消える
最も原始的な発想をプリミティブに表現して見せた形象の上から、
この色を塗り込めて曖昧模糊な画面に敢えてするというやり方をしている。
ただこれは、この色の持つ強さゆえに、せっかくの本来の主題の持つ
伸びやかさや面白さを摘み取ってしまうこともあるという危険性を
孕んでいるだけに普通の神経を持つ画家なら、
滅多に使わない色の様に思える。
そこがどこまでも優等生にはなり切れない平澤の
平澤たる所以でもあるのだろう。
しかしこの主題と等価の色彩に対する苦闘も近作をみていると、
ほどなくその解決への道が開かれてくるものと思われる。
いずれにしても、一時的な模範生の解答にみられる風の通俗的な
技巧のみに堕していないところが、尋常で無い魅力横溢な点で、
この作家を推す理由のひとつでもある。
画廊シェーネ 店主 奧田 聰
1990年12月 東興通信投稿文より

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